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セミナー講師より さいごに


 ほとんどの中小企業は、経営者一族が得をするように、会社経営を行っています。
 ですから、今までに見てきたように、財務分析の中心的な目的である収益力の判断についても、中小企業と経営者一族を合わせて収益力を把握することが不可欠です。

 中小企業における決算書は、法人税や所得税等を合わせた納税負担等がより軽く済むような観点で、役員報酬や経営者一族に対する地代家賃等を決定しながら、その結果として当期純利益を確定させる傾向にあります。
 税法等が改訂されれば、それに合わせた対応をとるものと思われるため、税法の知識は税務分析にとても役に立ちます。
 現状の税法を基準に考えるならば、中小企業は儲かるほど役員報酬や経営者一族に対する地代家賃等を増額するとともに、交際費等で贅沢をする傾向にあります。
 さらに儲かれば、節税保険に入ったり、多額の退職金を支払って役員を退職させたりすることでしょう。

 一方、業績が悪化しはじめると、その逆をたどりながら赤字決算を回避し、それでも赤字になりそうになると粉飾を行うのが、現状では非常によく見受けられる中小企業の行動パターンとなっています。
 とくに売上債権や棚卸資産の過大計上を用いた粉飾手法は、非常によく見かける方法となっています。
 これについても、借入金利が大幅に優遇されるなど、適正な決算による恩典が大きくなったり、逆に粉飾決算に対する社会的な制裁が強くなったりすれば、中小企業の対応は変化すると思われるため、これらの動向も目が離せないところです。

 いずれにしても、中小企業の財務分析においては、中小企業の決算実務に関する知識が大変役に立ちます。
 本書では、それらのパターンを説明するとともに、その逆読みをすることで会社のおかれている収益状況等を推測する方法を説明してきました。
 一般的な解説書で説明されている財務分析の方法とは、大きく異なる内容ばかりだったと思います。
 中小企業の決算実務を知らない人にとっては、はじめて聞くような分析方法も多々含まれていたのではないでしょうか。
 しかし、その分析方法は非常に簡潔であるにもかかわらず、たいへん実務に役立つものが多いはずです。

 私が中小企業の決算書に対する財務分析を実際に行ってきた中で、精度を高めながら確立した方法であり、中小企業の財務分析にとって非常に有効であることを、私自身が実務において実感しているからです。
 是非とも今まで説明してきた財務分析ノウハウを自分のものにして、粉飾決算にだまされないように十分な財務分析を行っていただきたく思います。






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