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中小企業における収益力とは

個人と法人を一体判断する際の問題点


 多くの金融機関は、融資の対象先である会社自体の利益を非常に重視します。
 ですから、前述のように利益が圧縮された会社は、金融機関から見ると単に収益力の低い会社と判断される傾向にあります。
 「利益がほとんど出ていないので、この会社には融資が困難」
と、低い評価がなされます。
 個人事業の時は優良先と判断されていたのに、法人成りをすると格付けが落ちてしまう。
 法人と個人を一体で考えたならば、課税負担が減少した分だけ、返済資金力がアップしたにもかかわらずです。

 中小企業に対して、金融機関は
 「法人と経営者個人を一体で査定する」
としています。
 各金融機関が自ら作成している自己査定基準においても、そのような記述があります。
 法人と経営者個人の資産と負債を合算して、実態貸借対照表を作成する実務も定着しています。
 会社の業績が悪化して資金繰りが苦しくなった場合には、返済方法を見直す判断材料として、経営者個人の収入が考慮されます。
 しかし、平常時の見方として、法人と個人を一体にして収益力を判断するという感覚に欠けているように思います。

 金融機関が融資をする対象は、事業を行っている会社ですので、返済をしなければならないのは、その融資を受けた会社自身です。
 その会社が利益を計上していない以上、返済する力に不安を感じるのは仕方ないのかもしれません。
しかし、中小企業の場合、会社の資金繰りが厳しくなれば、経営者個人が会社に資金を注ぎ込み、返済が滞らないようにするのは当然です。
 その経営者の役員報酬が多額であれば、会社に変わって会社の借入金を返済することは容易です。
会社の収益力が低くても、役員報酬が多額である会社については、融資が貸倒れるリスクがそれほど高くありません。
 それが中小企業の実態である以上、中小企業に対する銀行の融資実務も、それに合わせてリスク管理をする方が理に適っています。

 中小企業の場合、会社の利益と、経営者一族の役員報酬を合わせた合計で、収益力を検討するという視点を、もっと重視する必要があると思います。




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