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中小企業の決算書を読みこなす

赤字を計上する理由


 前に、税務上の繰越欠損金は、その後7年間のあいだに計上される利益と相殺して税額計算ができるという説明をしました。
 節税効果があるということです。

 ここで、7年平均して収支がトントンになるようなA社とB社があったとしましょう。
 どちらも収益力は同じであるといえます。
 ここでA社は、毎期の利益がゼロという決算を7年続けました。
 利益がゼロであるため、法人税等はほとんど発生しません。
 B社は、初年度に特別損失によって600万円の赤字を計上して、その後6年間で毎期100万円の利益を計上しました。
 2年目から計上される合計600万円の黒字は、初年度に計上された600万円の赤字と相殺されるため、同じく法人税等がほとんど発生しません。

 では、どちらの会社が行った決算が、財務戦略として賢いといえるでしょう。
 まず銀行の視点で考えると、A社は毎期ほとんど利益を計上できない会社という評価になるでしょう。
 それに比べてB社は、一時的な要因で赤字を計上したものの、基本的には収益力のある会社という評価が得られると思います。
 ですから、B社に軍配があがります。

 次に税務な視点で考えると、どちらも法人税等をほとんど支払っていないため、税務的には一見同じ評価になるように思われます。
 しかし、たとえば3年目に税務調査が入って200万円の未収収益計上漏れを指摘されたとすると、A社は追徴課税を受けることになります。
 一方で、税務上の繰越欠損金があるB社には追徴課税が発生しません。
さらにいうと、B社は税務上の繰越欠損金を有しているため、もともと税務調査が入る可能性がA社より低いと考えられます。
 ですから、B社のような決算を組んだ方が、いろいろな面で有利なことが多いと思われます。

 優秀な業績を上げている社長のうち、比較的多くの割合の社長は、このB社のような決算を理想と考えています。
 ですから、赤字決算の会社には、結構いい会社が混在しています。

 ただ単に業績が悪いのか、意図的に赤字先行の決算を行っているのか、赤字決算を行った理由をよく確認することはとても大切です。
 前向きに赤字先行のB社のような決算を組む会社は、一般的に役員報酬が1000万円以上と高くなっていることが多いので、その点にも注目して判断すると、間違った判断はグッと減るように思います。




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