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財務分析の具体例

在庫の水増しによる粉飾決算書


 在庫を水増しするとは、貸借対照表上で棚卸資産の評価額を過大にすることです。
 期末にある在庫は、その金額を集計した上で、
  (借)期末棚卸資産 ××円  / (貸)売上原価 ××円
という仕訳によって、資産計上されるとともに、その金額だけ売上原価が減額されます。

 仕訳は覚えなくても結構です。
 要は、その金額をごまかせば、いくらでも売上原価を減らして、その分だけ利益を増やすことが可能ということを理解してください。
 ただし、ごまかした分だけ、貸借対照表上に棚卸資産が過大な金額で計上されるのです。

 さて、ここで一つ誤解のないように注意しておくことがあります。
 在庫を水増しすると、貸借対照表上に計上される棚卸資産の過大計上部分が不良資産となります。
 しかし、粉飾によって発生するこのような不良資産は、どこにも存在していません。
 在庫が積んである倉庫に行っても、陳腐化している不良在庫はありません。
 仕訳を入力する際に、金額を過大にしただけであり、それによって倉庫に陳腐化した在庫が積まれる訳ではないからです。
 一般的に不良在庫といわれるものとは全くの別物です。

 不良在庫は、本来は在庫として存在はしているものの、欠陥や陳腐化によって購入時より価値が落ちているもののことをいいます。
 それはそれで、価値の減少部分を評価減として費用化することが必要です。
 そのような費用化が行われていない場合には、不良資産として認識する必要があります。
 それはそれとして大切なチェックポイントかもしれませんが、粉飾による過大計上よりは大きな問題とはなりません。
 不良化や陳腐化を起こす在庫は、実際にモノがありますので、倉庫を視察したりすれば存在を確認できますし、不良在庫が発生しやすい商品はある程度特定できますし、いずれにしても金額が多額になる可能性は比較的高くないからです。

 いずれにしても、分析方法は使い分ける必要はありません。
 粉飾による単なる金額水増しであっても、陳腐化等による不良在庫あっても、分析として必要なのは、回転日数にして長期の増加傾向を示していないかをチェックすることです。
 「在庫倉庫を視察したけれど、陳腐化や滞留している在庫がなかったので、棚卸資産の中に不良資産はありません」と判断するようなミスだけは決してないよう、ご注意ください。




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